2016年7月10日


 闇の中の光」

ルネッサンス時代(1416世紀、イタリアを中心に全ヨーロッパに広まった学問・芸術・文化上の革新運動。文芸復興期ともいいます)の代表的な画家であるラファエロ(14831520年)が書いた作品に『キリストの変容』(1520年)と題する大きな(410279cm)絵があります。

 その画面の上半分には、「イエスは、ただペトロ、ヤコブ、ヨハネだけを連れて、高い山に登られ」(マルコ9:2)、そこで主イエスの御姿が変わり、神々しく輝いています。その栄光の姿にペトロたち三人の弟子が驚いている荘厳な情景です。

 いっぽう画面の中央には、雲がたなびいて、その下の部分はちょうど日光を雲が遮っているように、暗い麓の状況が描きこまれています。群衆に囲まれて一人の子どもが引きつけを起こしています。腕は硬直して突き出され、顔面蒼白でこわばり、焦点の定まらない目を見開いています。その子の父親が山の上を指さして、主イエスの助けを待っています

 ラファエロは、マルコ福音書に描かれた主イエスの変貌の物語を、とても上手に描くことに成功しています。普通「山上の変容」と言うと、高い山の上で主イエスの御姿が変わって美しく輝いているところだけを見がちです。あの時、弟子たちは山の上にとどまって、この世のものとは思えない祝福を、少しでも長く味わいたいと願いました。しかし主イエスはその申し出を退けて、直ちに山を下り、その麓で苦しみながら助けを待っていた子どものところへ行かれました。

 主イエスが神の恵みと力に満たされ、内側から輝き出るばかりの、超自然の栄光の姿になられたのは、この世の暗い現実から離れて、自分たちだけの喜びの生活を楽しむためではなく、むしろ世の闇の只中に入って来て、その闇を照らし、人びとを力づけ、癒すためでした。